以前、アニメ映画版の「この世界の片隅に」の感想を書きました。
参照:「この世界の片隅に」アニメ映画版の感想記事はこちらになります。
今回、映画では描写されてなかった部分を中心に、原作である漫画版「この世界の片隅に」の感想を記させていただきました。
2018年12月公開予定の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の内容に近いものだと思われます。
※この記事はネタバレがございますので閲覧にご注意ください。
もくじ
漫画版(原作)、原作は主に恋、愛について考える作品でした。
2016年に公開されたアニメ映画は主に戦時下での日常を描く作品でしたが、
原作漫画「この世界の片隅に」は映画では描かれていない、すずさん、周作さん、リンさん、水原さんの恋愛模様が深く掘り下げられておりました。
原作、漫画版は上、中、下巻の合計3冊になっております。
絵のタッチがやわらく、優しい雰囲気が伝わり、好きです。
そして原作の漫画はよりコミカルな部分をたくさん感じ、読んでいてふと笑ってしまうシーンがたくさんありました。
原作の方が少しお話の雰囲気が軽く(戦争についての比重より)、個人的にはどちらかというと映画ではあまり描かれていない恋愛要素について考える作品だと思いました。
原作を開くと目に入る、遠くを見つめる登場人物たち
原作の上巻は、とてもほのぼのしていて、この物語のやさしい世界観を感じ、そして思っていた以上にコミカルな要素がたくさんありました。
独特の口調(広島・呉弁?)で物語が進み、可笑しな日常が綴らております。
登場人物がたまに逆さまにひっくり返ったりするのです。
そんな描写も可愛いです。
そして、この楽しい日常を描いた作品を読み進め、印象に感じたイラストがありました。
どの巻も開いて最初に目に入る登場人物が少し物憂げに遠くを見つめる描写です。
上巻最初のカラーの絵では、水原さんを描いたうさぎが跳ねる海をみつめるすずさん、
中巻では、漫画最初のページ「第12回 19年7月」で丈比べの柱に手を添えて遠くを見つめて立つ径子(けいこ)さん、
下巻では、桜の木の上に登ったすずさんと、リンさん。
それぞれのイラストから感じた「この世界の片隅に」は、遠く、その場所には居ない人を想う気持ち、遠くの人を見つめる心について考える作品でした。
男女の愛、恋、親子の愛情、知り合った人びとを想う気持ちです。
通信も輸送も今とは違う半世紀以上前の人たち、その人たちがこころ中に持つ人を想う気持ち、すぐに会えないからこそ遠く離れた相手を考える想像力、こころの豊かさがあったのではないかと感じた原作です。
スポンサーリンク
そこにはいない相手を想う、想像の豊かさについて
物語の中盤、原作漫画で言うと中巻あたりから、しだいに恋愛の内容が濃くなっていきます。
リンさんのお茶碗のくだりですが、登場人物のなかで、リンさんが考える人生観で印象に残った言葉がありました。
「誰でも何かが足らんぐらいでこの世界に居場所はそうそう無うなりゃせんよ すずさん」
(中巻P41より引用いたしました。)
すずさんと旦那さんの周作さん、そして呉(くれ)の遊郭で生きるリンさん。
周作さんが、読み書きが得意でないリンさんの代わりに、遊郭にいるリンさんの名札を書いてあげたと思われる描写があります。
名札を書いたノートの切れ端ですが、すずさんは周作さんが家に忘れていったノートの表紙が切れていたことを思い出し、周作さんとリンさんとの関係に気づきます。
はじめて、すずさんとリンさんが出会ったのは、すずさんが闇市に砂糖を買いに行った帰り道でした。
道を間違え、リンさんのいる遊郭に迷いこみます。
そして帰り道を教えてくれたお礼をしに、再びリンさんに会いにいくすずさん。
すいかやはっか糖、うえはー(ウエハース)が付いたアイスクリームなどの絵を描いてあげる為、婦人科の診察の帰りに、リンさんのところへ訪れます。
すずさんは子供ができない悩みなど、嫁ぎ先で口にしづらい悩みをリンさんに話します。
リンさんは、リンさんの考えをすずさんに教えます。「何かが足らんぐらいでこの世界に居場所はそうそう無うなりゃせんよ」と伝えるリンさん。
リンさんは、親も知らず、生きるために売られて遊郭にいたのだと思います。
すずさんよりも持っているものは少なかったかもしれません。
すずさんは、両親も、そして鬼いちゃん(お兄ちゃん)も、妹のすみちゃんもいます。
旦那さんの周作さんもいます。
すずさんは絵を描く才能だってあります。
リンさんと比べれば、すずさんはリンさんよりもたくさんのものがあったのかもしれません。
それでも、すずさんの困っていること、不妊のことを聞いて、リンさんの立場でリンさんなりの人生観を伝えます。
そして、すずさんが、周作さんとリンさんとの関係を解ってしまった時点ですずさんへ伝えた言葉も印象的でした。
「ねえ すずさん 人が死んだら記憶も消えて無うなる」
「秘密は無かったことになる」
「それはそれでゼイタクな事かも知れんよ」
「自分専用のお茶椀と同じくらいにね」(中巻P135~P136より引用いたしました。)
すずさんは、いつか周作さんがリンさん宛に贈ろうとしたお茶碗を納屋で見つけ、それをリンさんへ届けるのです。
すずさんと周作さんの結婚よりも、周作さんとリンさんの関係が早かったと思われます。
周作さんはリンさんとの結婚の話を家族としていたと思われます。
周作さんのお母さんが「一時の気の迷いで変な子に決めんでほんま良かった」(中巻P47)と言っておりますが、リンさんのことだと、
「記憶」も無くなるとは戦死のことでしょう。
原作の「この世界の片隅に」は、すずさん、周作さん、リンさんの恋、愛の部分が描かれていた作品でした。
特に、戦争という日常のなかで死を意識して相手を考える気持ちが印象に残りました。
スポンサーリンク
「この世界の片隅に」から感じる、そこにいない人を想う気持ち
「この世界の片隅に」が恋、愛のお話でもあるとも感じ、そしてそれぞれの登場人物がそこにない人を想像するこころを感じることができ、好きな作品です。
例えば、すずさんの義姉、径子(けいこ)さん、径子さんは夫を亡くし、死別後、嫁ぎ先とうまくいかず実家の呉へ帰ってきます。
長男である息子は相手方へ残し、娘の晴美と一緒に実家の呉へ戻ってきました。
晴美が小学校の入学のとき、下関から送られてきた息子のおさがりの教科書の落書きを見て、息子はどんな子に育っているのか想像します。
昔の世界は、今とは違い簡単に話せる、会える世界ではなかったのだとしみじみ感じました。
たった少しの情報で大切な人を想い、想像する。
教科書の落書きひとつでも。
この世界の人達は、みな想像で相手を想うことができる。
そうするしかなったのかもしれませんが、
各巻、最初ページの方で目にとまった遠くを見つめる登場人物のイラスト、
きっと、あの時代は近くにいないからこそ、大切な人を想像をし、その心が豊だったのではないかと思った部分です。
簡単に会える、簡単につながる今よりも、相手に対しての想いが豊富であたたかい気持ちがあったのではないかと考えました。
きっと当時だって、この物語では描かれていない、その時代での苦しみや嫌なことがあったはずです。
ただ、そんなことも、「この世界の片隅に」の登場人物のフィルターを通してみた世界は、とても綺麗であたたかく、やさしい、
そう感じる作品でした。
この物語で描かれている、恋、愛の部分ですが、
死、もしくは別れを前提とした愛の描かれ方、
それが、リンさんのすずさんと周作さんへ対しての気持ちであって、
そして戦争に行くのを見送ったすずさんの、水原さんへの想い、
径子さんの離ればなれになった息子への想い、
もう、もしかしたら永遠に会えないかもしれないという想いがより「愛」に近い感情なのかと思いました。
そして、今後も生き続け、夫婦二人で共に歩み生きて行く愛の描かれ方、すずさんと周作さん、こちらが現実味のあるよりリアルな愛、もしくは恋の感情と思いました。
この先も生き続けて、一緒に生活していく相手への感情は、死を見据えた相手への愛よりも少し複雑で、それこそ嫉妬心のような人間味のある感情を混ぜて生きて行くもの。
決して綺麗な側面だけではない部分もある事実。
実際の生活での、愛や恋とはそういったものではないでしょうか。
生きて行けば、一途に一人の人を想い続ける、それも少し難しいところで、この物語に隠されていた周作さんとリンさんとの関係のようなこともあるのではないか。
死に向き合った愛の潔さと人生観、
生に向き合った愛での少し複雑な愛と恋、
私は、この物語に登場するそれぞれの愛、恋の模様を考えると、「死への愛」、「生への愛」という二つの異なる愛情のコントラストを感じる作品でした。
スポンサーリンク
原作版「この世界の片隅に」感想まとめになります
すずさん、リンさん、周作さん、水原さん、四人の物語は遠い時代ですが、そう遠くない過去でもあるように感じます。
どの時代も恋愛に関して、きっとその時代の中で、みんな必死で、
それは今の世の中でも同じなのだと思います。
しかし、遠く離れた相手を想う想像力は、昔の方が遥かに豊かで、きっと遠く相手を想う分、想う相手への気持ちも深いのではないかと感じました。
今はどんな方法でもつながっていられます。
そして、人間関係も目まぐるしい。
だから一人の人を想う、例えば、久しぶりに会った水原さんのことをしみじみ考え、今どうしているのだろうか、
離れてしまったリンさんはどうしているだろうか、そのような想像力は今の世の中で持つことは少ないかもしれない。
時代と共に変わって行くのが人ですが、「この世界の片隅に」のようにゆっくりと人を想うことができた時代は間違いなく精神的に豊かだったと思いますし、人びとのつながりや接し方もよりあたたかかったと原作を読んで感じました。
きっと簡単に通信で話せて、発達した交通ですぐ会える時代よりも、
時間を置いて、ふと、なんの知らせもなく久しぶりに会えた。
そんな人間関係の方が喜びも深く、相手への想いも深くなる。
多様な方法で、すぐ絡み合う現代は、少し重たかったりもして、むしろ、ちょっと面倒でもあり、相手をゆっくりと想う、そんな情緒も欠けた現代なのだろうか、
原作、「この世界の片隅に」は、そんな風に、今と昔のこころの豊かさを考えた作品でした。
最後に、周作さんとリンさんの関係について、
すずさんは秘密のままで終わらせずに、周作さんとリンさんの関係を二人で共有したこと、
きっと、いなくなってしまったリンさんへの想いも二人分の思い出にすることができ、そしてこの先、二人の中でリンさんの記憶が存在し続ける、「記憶を消さなかった」、
リンさんの存在は、すずさん、周作さん、二人のこの先の人生をより深める、そういった存在としてお話が終わって良かったと感じました。
「この世界の片隅に」原作、漫画版の感想になりました。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。
コメントを残す