戦争だけでなく、人のやさしさを描いた作品
※この記事は物語の内容を含み、ネタバレがあります。(閲覧にご注意ください。)
映画「この世界の片隅に」の感想になります。
「この世界の片隅に」は、戦争がテーマのイメージがありましたが、実際に鑑賞すると、登場する人物の戦時下の日常を細やかに描き、とてもやさしさを感じる映画でした。
はじめは、テーマが重たそうと感じて、観るのが少し怖かったのですが、
どちらかというと戦争についてというより、人とのつながり、あたたかみ、戦争と対比した日常のやさしさを考える作品という感想でした。
すずさんの愛くるしさについて
映画冒頭のまだ戦争がはじまる前、ほのぼのと、やさしい日常から物語がはじまります。
すずさん(浦野すず)という人物、
明るく前向き、絵を描くのは得意ですが、それ以外はあまり器用ではない、でも、とても愛くるしいキャラクターでした。
ちゃっかり、妹と鉛筆を交換しようとしたりするシーンですとか、
それでも、あの人柄なので誰からも愛され、水原さんから鉛筆をもらうシーンもとてもやさしい気持ちになりました。
すずさんが、水原さんの背中姿と、海でうさぎが跳ねる絵を画いた場面ですが、水原さんの戦争に行く怖さも、愛していたすずさんの絵をみることで、少しでも戦争で海に行く怖さを肯定できたのでしょうか、
水原さんは、すずさんも、そしてすずさんの絵も好きだったのだろうと感じます。
「この世界の片隅に」は、ほのぼのとした日常だけでなく、人の細やかな感情がたくさん描かれている、とても繊細な映画に感じました。
映画が進むにつれ「すずさん」に幸せになってほしいと、切に感じました。
そして最後は、月並みな言葉ですが、戦争が終わって「良かった」、ほっとした、ただ、そういう感想になりました。
すずさんが生きていて良かったと思いました。
「良かった」という言葉に対しての気持ちは映画の中でも出てきます。
以下に、引用いたします。
「ともかく良かった」
「熱が下がって良かった」
「良かったのぉ、不発で」
「治りがはようて良かった」
「どこがどう良かったのかうちにはさっぱりわからん」
「良かった」という言葉に対しては、すずさんは晴美さんと右手を失ってしまい、みえる日常がかわり、すずさん自身が「歪んでいる」と自身に対して感じてしまう言葉でもありました。
それでも、私として、すずさんが生きていて良かったと感じたのは、
すずさんのところに訪れた時の、幼馴染の水原さんの台詞を引用させていただくと、
お前だけは最後までこの世界で普通でまともで居(お)ってくれ
まさにこの気持ちでした。
水原さんが戦争に行く前に、最後にすずさんに言った台詞で感じたところですが、戦争が終わっても変わらずに、すずさんらしく、生きて居てくれたことに、「良かった」と思いました。
敗戦の現実に対しての、すずさんの感情も描かれておりましたが、最後は、映画冒頭で感じた、おだやかでやさしい、今までのすずさんで居てくれたことに、ほんとうに良かったと感じました。
この映画を通して、苦しい場面でも、前向きで、明るくあろうとした、すずさんがいたことを知ることができました。
すずさんの明るさ、ほんわかとして、やわらかい雰囲気、後からつくることができない生まれ持った愛くるしさに、とても羨ましく、そして微笑ましくも感じました。
そんな、すずさんが戦争をとおして、晴美さんを失ったり、右手で絵を描けなくなるなど、つらいこともありましたが、それでも変わらずに居てくれたことに、映画が終わった時にほっとし、安堵のような気持ちになりました。
すずさん以外の、他の登場人物もみんな可愛く描かれ、「この世界の片隅に」の絵の雰囲気も好きでした。
物語の背景である、瀬戸内海の穏やかな海も伝わってきました。
あと、方言の部分ですが、「~じゃね」「~じゃ」という話し方がふだんあまり耳にしないのですが、イントネーションから伝わる柔らかい話し方も、良かったです。
やさしい性格、人柄が表れていた描写を感じたところ
感想をながながと書いてしまいそうですので、すずさんのやさしい人柄を感じたところをあげてみます。(ひとそれぞれに印象に残るシーンはあると思いますが、個人的に感じた部分になります。)
・物語の冒頭、海苔をとどける砂利船の上で、手のひらにお小銭を広げて、兄と妹の土産をどれにするのか迷うところ
・座敷童にスイカをあげようとするところ
・周作さんがなにも食べてなくて、柿を口にして安心するところ
・リンさんに絵を描いてあげるところ
・鷺(さぎ)を追いかけて、山へ逃がそうとするところ
・母親の面影を追った孤児に、海苔巻きをあげて、そのまま子供として引き取るところ
他、こまごまとあげると、たくさんありますが、物語全体を回想して思い浮かんできたシーンになります。
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「この世界の片隅に」 登場人物の感想もふくめ、まとめになります
「この世界の片隅に」の登場人物について少し触れつつ、まとめになります。
主人公のすずさんも魅力的ですが、他にも、周作さん、すずの幼馴染の水原さん、径子さん、晴美さんなどたくさんの登場人物が出てきます。
私は、まだ原作の漫画を、ちょっとしか読んでいないのですが、少しだけ登場するリンさん、
呉の遊郭で道に迷ったすずさんを助ける、リンさんも登場します。
すずさんとリンさんのスイカのお話の場面が映画冒頭の座敷わらしにスイカをあげるシーンとつながり、好きな場面でした。
映画版と原作では描写の違いがあるようで、周作さんとリンさんとの関係について、戦争だけでなく恋、または愛の部分についても面白そうで、ここはいつか原作を読めたらと思います。
他に、映画の中で好きな場面は、すずさんと径子(けいこ)さんのやり取りでした。
最初は、すずさんに対して径子さんは嫌味な感じで接してきます。
顔立ちも言い方もきつくて、あまり良い印象ではありませんでした。
それでも話が進むにつれて、徐々にすずさんを家族として受け入れていくところが好きでした。
戦争中という背景でほっこりとする日常のシーンがたくさんありました。
キツめでしっかり者に感じる径子さんですが、すずさんとアイスクリームの話しをする場面で、砂糖が溶けた水を飲むシーンもなんだか、この映画の登場人物みんなが愛くるしいなと感じたところです。
径子さんが嫁いだ過去のお話や離れてしまった息子のこと、娘の晴美をなくしてしまうところで、すずさんに対して感情的になってしまいましたが、最後はすずさんを、ほんとうの家族として受け入れてくれました。
配役ですと、すずさんを演じるのんさんの声も、おだやかで、のんびりして、すずさんのイメージにぴったりでした。
絵もやさしく描かれていて、やわらかさがあります。
「この世界の片隅に」については、観る方によってそれぞれ、印象に残る場面、感想、もしくは歴史についての考察があると思います。
特に、歴史については、とても難しいです。
ひとことで、うまく私は伝えられないのですが、コトリンゴさんの歌う「悲しくてやりきない」の歌詞の一部を引用させていただきます。
この限りないむなしさの救いはないだろうか
戦争については、政治の部分、人間の心理などたくさんの難しいところを思うのですが、ひとつだけ「この世界の片隅に」の映画の冒頭で流れた歌詞で感じ、思った部分です。
私はこの作品は、登場する、すずさんの人柄、家族のやりとり、あたたかさがとても魅力的に映り好きです。
みていて、自然と涙が溢れてきました。
緊張する時代背景だったので、すずさんや登場人物の人柄などが、とてもやさしく映り、さらにほっと感じてしまったのかもしれません。
何度も観直したい映画でして、「この世界の片隅に」に出会えたことに、感謝の気持ちがいっぱいになりました。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。
※何度か記事内容を修正させていただきました。描かれる背景もふくめ、鑑賞のたびに、考えることが多い作品で、また修正、追記がある場合がございます。(多きな修正の際は別途、別の記事にいたします。申し訳ありません。)
追記:原作、漫画版の感想を書きました。下の行をクリックで移動します。
参照:「今と昔」人を想う心の豊かさについて 原作「この世界の片隅に」感想
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