たまに、どうしようもなく、さみしいと感じる時がある・・・。
そんな感覚は、いつだか、
もうだいぶ遠いところへ行ってしまったと思っていたのですが、
喧噪から逃れにのがれ・・・
ふと、夕闇になると、5月も終わりそうな、たんぼから動物の声が聞こえるような場所にいると、
心までが、どうしようもない地の果てにきてしまった気がする時があります。
という、
たわいもない個人的感情をさらけだしつつも、
最近読みました、川上弘美さんの作品、
「センセイの鞄」(せんせいのかばん)の感想文を書きます。
久しぶりに本を読みました。
最近、まったく文字が目に入らずに、ただ、ただ、
本の文字を目で追うだけ・・・。
頭に入ってこなくて、なんども本を開いてはあきらめ・・・
どうして、こうも集中力がなくなってしまったのだろう・・・と、なんだか、そんな時は、やっぱり悲しくなるのです。
「センセイの鞄」私的、あらすじ
個人的に読んで感じた「あらすじ」を書きます。
※ネタバレがありますので、閲覧にご注意ください!
その前に、この本は、なんだか、個人的には、とっても、しぶい一冊のような気がしました。
お話は、40才を前にした独身女性、「ツキコさん」(以下、ツキコ)と、高校時代の国語の教師「センセイ」との、大人の恋の物語でした。
たまたま、ツキコの行きつけの居酒屋さんのカウンターで、昔の高校時代の国語の教師「センセイ」と再会し、
なんとなく、
その飲み屋さんで会うようになってから、
お互いに、惹かれあって、
恋をしていく。
というような内容です。
ところどころ出てくる、詩
俳句といっていいのでしょうか、
ところどころ、センセイは元国語の教師であるのか、
ツキコとセンセイとの間には、
誰がしの俳句、いや、そもそも俳句なのかもわからないのですが、
昔の詩の一節のような内容が出てくるので、(伊良子清白:イラコセイハク、と記載がありました。)
先ほども書きましたが、読みながら、少しシブイ本だな、と感じてしまったのかもしれません。
女性が書いた本ですが、
なんだか、ナチュラルに40才手前の独身女性の感情を書いてあるような気がして、
読みながら、
あまりにも感情に華が感じなくて・・・
ですが、
それが、良い雰囲気でした。(淡々とした雰囲気です。)
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登場人物の私生活が謎すぎる
そして、いちばん、この本を読んで感じたところですと、
ツキコとセンセイ、
どちらも、小説を読んで、
二人の私生活が謎な部分が不思議な感覚でした。
センセイは、60~70才くらいの男性、
なんだが、全体的な線は細いのですが、心も体も芯はしっかりしている。
もう現役を終えて、ひとりで残りの人生を過ごしているような感じがしました。
(小説の中で、奥さんは昔、出て行ってしまい、息子は遠くで暮らしているとあります。)
センセイの方が、なんとなく私生活はイメージできました。
ひとりでひっそりと暮らしている。
日中はぶらぶらと散歩やらしている。
それは、
主人公、語り手がツキコさんだったので、
ほぼ、
作中ではセンセイのことばかり書いてあるからだと、それは当然と言えるのかもしれません。
ですが、主人公の「ツキコ」
この女性は、なんだか、「ふだん」がわからない人物でした。
40手前の独身女性。
一人暮らし。
それまでしかわかりません。
ですが、高校の時に暮らしていた町に住んでいる。
ということは、
ツキコの生まれた地元だと思われるのですが、
ツキコの両親の描写がないのです。
高校の時の友達は、ひとりだけ、男性の小島孝という同級生が出てきます。
そして、この女性、ツキコが、ふだん、
どんな日常を送っているのか、
まったくもって鮮明に書いてなかったのです・・・。
つまりは、
小説の中で、
飲み屋さんでセンセイと偶然に出会ってから、
その飲み屋さんでのやり取りが多いんですが、
物語が進むにつれ、二人でデート、旅行、
季節を追って、少しずつ関係が深まり・・・
その行方を、日記のように綴っているように感じるのですが、
ツキコがどんな仕事をして、ふだん暮らしているのか、
なんで、この人は一人なのか、
過去の恋愛遍歴の描写も少なく・・・
私にとっては、まったく持って、謎な女性でした。
「謎」と言っても、
じゃあ、それが、ミステリアスな雰囲気があったり、
影のある女性という感じではなく、
個人的には、
どちらかと言うと、
容姿も普通、性格も普通、
むしろ、これと言った特徴がないくらい「普通」。
見た目が綺麗がどうかも、本を読みながら、あえて例えるなら「普通」というような感じがしました。
それで、じゃあ、
なんで、
このツキコという女性が、センセイに惹かれ、
そして年の差が離れていても、
それこそ、親と子ぐらいの年齢で、
恋をしていくのか、
とても小説の中では、
ゆっくりと、
季節をめぐらして、センセイとの日々が語ってあり、
どちらかと言うと、若くて激しい「恋」というよりは、
そもそも「恋愛」なのか!?
というようなくくりの「恋愛小説」でした。
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どうして惹かれていったのか
二人がどうして惹かれていったのか、
というところと、
ツキコの普段の日常が不明なところに、
何かこの本の意味があるのではないか、と、
ここはあくまで妄想になりますが、読んだ後に考えました。
ツキコは、果たして、普段、どんな生活をしているのだろうか?
いったい、職場ではどんな立場で、
どんな境遇なのだろうか、
まったく小説の中に書いてないのが、個人的にやたら気になりました。
というのも、
40手前の女性であれば、
ふだんの日常で、
それこそ、
生活時間の大部分をしめる、
職場での苦しみや、人間関係、もしくは結婚など、
そんな悩みもあるのではないかと、私は感じたのですが、
ツキコがそのようなことに悩んでいる描写はまったくありません。
センセイとの会話でもありません。
ですが、それでも、
ツキコとセンセイの仲が、ツキコの日常以外の世界でつながっていると思って読むとなんだか不思議な感覚でした。
「センセイの鞄」まとめ
という、久しぶりに書いた読書感想文ですが、
感想になっているのか、
なっていないのか・・・
なかなか、私には難しい小説だったのですが・・・
ツキコとセンセイの間には、情熱的な恋愛ではなく、
ゆっくり、ゆったりと、
それこそ、近い場所で暮らす二人は、
たまたま街中で偶然に会ったりすることも良くあるような描写があり、
実際に、そんなに知った人と会うのだろうか、と感じるくらい偶然が多いなぁとも、
そして、惹かれあう二人が、けっこう偶然で出会うというのは、うらやましいなぁとも思ったり・・・。
印象に残ったのは、この二人は、ほんとうによく飲む・・・
そして、読み返して、いちばん、個人的に目を惹いたところ、
この小説の中には、なんとも言えない例え方が、
ところどころ出てきまして、
例えば、擬音語、擬態語(?)がでてくるのですが、(鳥の鳴き声など・・・)
最後、引用いたします。(一番最後の文章です。)
そんな夜には、センセイの鞄を開けて、中を覗いてみる。鞄の中には、からっぽの、何もない空間が、広がっている。ただ儚々(ぼうぼう)とした空間ばかりが、広がっているのである。
(「センセイの鞄」P270より引用いたしました。)
この、最後の一文、儚々(ぼうぼう)という表現で、
なんだか、
さみしい感覚を覚えたのです・・・。
きっと、
ツキコの日常が描かれていなかったのは、
ただ単に、センセイとの日常だけを、ただ、それだけをお話として閉じ込めて、そして残しておきたかったのではないか、と、個人的に考えてしまいました。
二人で歩いた時に、いつもセンセイが持っていた「鞄(かばん)」、
中を開けてみると、儚々(ぼうぼう)としている・・・
ツキコも、センセイも、
最後の一文のように、
なんだか、どこか、さみしかったのではないか、と・・・。
平凡に生きているようで、なんの起伏もないような生活の中でも、どこかに、さみしさがあったような・・・。
まあ、それが、具体的にじゃあ何かと言うと難しいのですが・・・。
良く考えると、ツキコもセンセイも、人生を達観しているようにも思えてきたのです。
ですが、そんな二人でも、
年の差が離れても、
お互いに惹かれて・・・
恋として成り立ったのか、と・・・。
むしろ、ツキコの日常がわからないばかりに、
余計、
この小説は、ツキコとセンセイとの二人の時間は特別であったのだと。
そう、最後に思ったのでした。
「鞄の中には、からっぽの、何もない空間」は、
センセイを失ったツキコのさみしさだろうか・・・
それとも、ツキコがセンセイと出会う前から持っていた、生きてきたさみしさなのだろうか・・・
最後の一文で、そんなことを考えた小説でした。
そういえば、
小説の出だし、2行目、以下、引用します。
「先生」でもなく、「せんせい」でもなく、カタカナで「センセイ」だ。
という、出だしの書き方からなんだか、この本に惹かれ・・・
最後の、文章、儚々(ぼうぼう)という表現で、
個人的には、
小説のなかでところどころ、詩を読んでいるような、
それでいて、読後にツキコとセンセイのさみしさも感じてしまう小説でした。
かといって、
そのさみしさを埋めてくれるという訳でもなく、
私にとっては、そのさみしさにただ、答えを・・・
救いがある・・・というたぐいの小説ではないような気がして、本を閉じました。
以上になります。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
追記:鞄(かばん)とは、よく考えると不思議なものだと。人目によくつくのに、その中身はわからない・・・ ですが、中をのぞけば、その人のことをもっと良くわかることができそうな気がする(人の鞄の中身を見たことがないので、そんな感覚です・・・)ふと、そんなことを思いました。